矢野 嘉章(やの よしあき)さん
矢野ミルクサービス代表
矢野さんに聞いてみました!
■これまでのご経歴と現在の仕事について教えてください
羽後町(うごまち)は電車の駅も無く、若い頃は日本一不便な田舎だと感じていました。やはり都会への憧れがあり地元の高校を卒業後は「都市部に出たい」という思いから、神奈川大学に進学しました。ですが将来、特に何になりたい職業を描けていなかったので、応用が利くということで経済学部経済学科を選びました。
大学時代はESS(English speaking society/英会話のサークルまたは部活)に所属し、神奈川県の観光地を訪れた外国人旅行者をボランティアガイドしていました。
家業は雪印乳業の牛乳宅配をしていたこともあり雪印乳業を志望しました。実は小中高と登校前に家業の手伝いをしていました。それを不思議と嫌がることがなかったことから良いイメージがあったのだと思います。
そこに13年間勤める中で、仙台・山形と転勤し、タイの関連会社へも出向しました。帰国後は神奈川の支店で勤務していましたが、雪印が原因となる集団食中毒事件が発生し、自分たちが原因でないのにお客さまに頭を下げる両親をみてとても切ない気持ちになったこと。事件後、信用回復のために頑張っていた中で社内トラブルがあったことで緊張の糸が切れてしまい、自分のモチベーションを維持できなくなったこと。当時、両親は60歳を過ぎて現役で働いていたこともありましたので、地元に戻り家業を継ぐ決心を固めました。
現在も「矢野牛乳店」として、雪印メグミルクの牛乳宅配を仕事としています。仕事の内容は変わりましたが、今も雪印の商品を販売する仕事ですので、間接的ですがブレない関わりを持てていることはひとつのモチベーションとなっています。
■地元との関わりや魅力を教えてください
小学生のころから祭の山車の太鼓に興味を持ち、中学生になると盆踊りのお囃子として地元羽後町の西馬音内(にしもない)盆踊りや神社の祭など地域行事に参加していました。特に西馬音内盆踊りは、大学時代、社会人になってからも、休暇を取って参加していましたので生活の一部となっています。今では「NO踊り、NOライフ」で、自分の中ではなくてはならない存在となっています。
西馬音内盆踊りがあることによって地元の魅力を再確認できますし、世界中で唯一無二のものが地元にある誇りを持てています。国の重要無形民俗文化財に指定されていますし、現在はユネスコの無形文化遺産登録を目指す日本各地の民俗芸能「風流踊」にも選出されていますので、今後も大切にしたいです。
■実行委員として関わる「にしもないde踊らナイト」について教えてください
西馬音内盆踊りは日本三大盆踊りの一つにあげられますが踊りの振りが難しく、練習して覚えないと踊れませんし衣装にも決まりがあります。踊りをしっかり覚え、衣装を着用しないと本番の踊りの輪に入れないこともあり、気軽に参加できません。
日本三大盆踊りの一つである郡上踊りは、初見でも手ぶり身振りでマネをすることが容易な踊りもあり、衣装も着用せずとも一緒に踊って楽しめる特徴があります。
郡上踊りのように、西馬音内盆踊りをもっと身近に感じてもらいたい思いがあり「にしもないde踊らナイト」というイベントを2018年から開催しています。
イベントは、初めて踊る人でも踊り衣装を着ていなくとも参加者が自由に輪に入り踊れる内容となっており、郡上踊りをはじめ、毎年様々な地域の踊りをゲストとして招待しています。郡上踊りには、熱狂的な盆踊りファン(踊り助平)が多く、彼らを通じて全国の盆踊りファンを呼ぶことができるのではないか、地域資源である西馬音内盆踊りを使って関係人口や交流人口を増やすことができるのではないかと考えたことも開催のきかっけです。
■にしもないde踊らナイトの手ぬぐいファンディングについて教えてください
はじめたきっかけは、郡上踊りの三種の神器である「浴衣、下駄、手ぬぐい」からヒントを得ました。クラウドファンディングをおこなえば見ず知らずの人が寄付してくれる可能性はあるのですが「自分たちがやりたいイベントを自分で説明して納得してくれた方からお金をいただくということがしたい」との考えもあり、手ぬぐいを購入いただく手ぬぐいファンディングというカタチにしました。購入者に記念撮影をお願いして、SNSに掲載すると「自分たちのイベントを応援してもらっている」と視覚的に励みになり、嬉しい気持ちになります。
■仕事や地元に根ざした活動をされるモチベーションは何ですか
羽後町西馬音内は、都市部と比べればやはり田舎です。大学進学して地元を離れるまでは地元の魅力に気づけていませんでしたが、今は都市部にはない魅力や価値がある楽しい田舎だと思っています。この地で、地元に根ざした商売をして、地に足をつけて暮らしていく以上、楽しく暮らしたいですし、その姿を今の子どもたちに見せないと「何もないし、つまんない町だ」という意識となり、町を出て戻らなくなる原因となります。
都市部には都市部の、田舎には田舎の魅力がたくさんあると感じてもらうためには、わたしたちの世代が態度で示す必要もありますので、楽しくこの地で暮らす姿をみせたいです。
人任せにせず自分からその姿を見せないと何も変わらないと思っていますので、行動することで活気ある町づくりの一助になりたいです。
■これまでのお話やご経験を踏まえ若い世代へアドバイスをください
大学進学や就職、あるいは実家を離れるなど、これから人生の中でターニングポイントになる選択機会が何度かおとずれると思います。振り返ったとき「あれをしていれば」「こっちを選んでおけば」と後悔しないように、自分を信じて選択してほしいです。また「すぐ答えが出ないとダメ」「一発、大きいのを当てる」といった考え方よりも、地道にコツコツ努力を重ねることも必要だと思います。仕事においても得られる給料だけに価値を求めるのではなく、今の仕事を今後どう生かせるかということに価値を見いだしてほしいです。逆にそれが見つからない仕事を無理して続ける必要もないと思います。
社会では自分の思い通りにいかないことも多々あるので、何事も前向きに捉え、自分に良い方に考えることで楽しめると思います。
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取材:藤原亜美
取材日:2022.09.17
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